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主に虚構に関する生起しつつあるテクスト

青心社SFシリーズ 「蛇の卵」 R.A.ラファティ

 とりあえず、ラファティでしょ。

 なんの因果か、遅れに遅れていたラファティの邦訳が連続で三冊も刊行された。

 「昔には帰れない」、「蛇の卵」、そして「第四の館」

 本当は三冊分の記事を書こうと思ったけれど、いま手元にあるのは後者二冊だけ。なので、とりあえず長編二本を頑張ってレビューしてみる(いや、速攻買って読んで楽しんだけど、実家においてきちゃっただけですんで)。

 しっかし、「地球礁」や「宇宙舟歌」に比べると読みやすいんじゃないんですかね、この二冊は。

 それではまずはこちらから……

蛇の卵 (Seishinsha SF Series)

蛇の卵 (Seishinsha SF Series)

 

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 以下ネタバレ含むので、気になる人は読まないでね(ラファティの長編はネタバレで面白さが減じるようなもんじゃないですが、一応)。

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 去年の京フェスで訳者の井上さんがあらすじを語っていたのをわくわくしながら聞いていた。

 人間、動物、天使、悪魔、それにマシンの中から選び抜かれた ” スーパー子供 ” 12人が本物の超級知性を持つ存在 ” 蛇の卵 " を目指して、世界を引っ掻き回しながら、あらゆる陰謀を張り巡らして世界を支配する秘密組織カンガルーと戦う話。

 どうです? 全然分からないでしょう?

 それとも「分かったぜ、想像の範囲内だ!」って言うつもりかね。

 たぶんそれは分かったつもりになってるだけ、ラファティの想像力は2、3周回って月の裏側に着地している。そんなのあらすじだけで捉えきれるもんじゃない。

 しかしまあ、いつもの長編は冥王星の裏側か、下手すると太陽系外に飛び出しているので、その点、今回は親切だと思う。

 やぶにらみの目、少数で世界を支配する秘密組合、〇人組のグループetc……ラファティの集大成というだけあって、頻出のキーワードがぼろぼろと出てきて、しかも場合によっては説明まで入る(実際シンセツ!)。

 分かりやすさだけなら、ラファティの長編でも一番じゃないかと思うのだ(邦訳長編はまだ全部読んでないからアレだけど)。

 またラファティにしては珍しくふつーのSFっぽい考察がちょいちょい出てくる。コンピューターと人間の違いとかそーゆーの。

 ぬぅわあんとこの世界では歩行型人間模倣コンピューターとゆーロボットが闊歩する世界で、しかもそいつらが超優秀! 人間なんて、ふふん、と見下していらっしゃる。

  序盤にはインタビュウ形式で様々なコンピューターたちの語りが入ったりもする。

 もちろん、そこらへんはほらふきおじさん流の諧謔たっぷりの語りだ(コンピューターの皮を被ったラファティだろ! と言いたくなる)。

 そして12人のスーパー子供の一人であるイニアールたんも女の子タイプのAMHコンピューターである。べつに彼女の容姿についてはほとんど触れられていないが、皆さんもぼくを見習ってロリ美少女として脳内再生することをお勧めする。

(あいたたた、石を投げないで下さいよ)

 まあ、そう怒らず聞いて聞いて。12人もスーパー子供は登場するけど、このイニアールたんはその中でも最後まで出てくる中心人物なんだってば。

 どっからどーみてもディストピアな世界で世界の支配者カンガルーに抵抗するうちに、一人また一人とスーパー子供は殺されていく。それでもイニアールたんは最後まで生き残る重要な語り手なんですよ。

 同時に世界を海底に沈めた張本人でもある。

 さまざまな種類の生物たちがごった煮に集まって沈没する世界から逃れるってちょっとノアの方舟ぽいななどとぼくは思ったりするのだけれど、そこまで合致する点があるわけではないので、はっきりとしたことは言えない。

 また、序盤にコンピューターのインタビュウ(まあ口伝の一種と言えなくもないだろう)が配置されているのは最後のひっくり返しの伏線と読めなくもないと思う。

 とにかくなんだかすっごい悲劇が起こったりしている(だって年端もいかない子供が連続して殺されていくって、普通は陰惨な物語になりかねないですぜ)のに、どうしてもにったらにったら笑いながら読んでしまうのは、どこか陽気な語り口のせいだろう。

 とんでも終末論SFだって、語り口次第ではにこやかな伝承に変えられてしまうのだ。本質はそのままにして。